我が国の科学技術は近年に進歩し、特に工業生産技術の特定分野においては、世界の追随を許さぬ程高い水準に達しております。
しかし、一方において、基礎科学分野では、いくつかの世界的業績はみられるものの、世界人類の資産としての学問的基礎の構築に対する我が国の貢献度は、まだ決して十分とは言えないようであります。
特に応用に対する直接的関係は薄いが、基礎学問体系の基盤としては重要な分野では、欧米の先進諸国に比べて我が国の研究基盤が薄弱であることがしばしば指摘されております。
また、技術分野の中でも、例えばエレクトロニクスや情報科学など、産業の基盤をなす技術において世界最高の水準にある分野が数多く見られる一方で、最先端の基礎領域の開拓するために不可欠な先端技術であっても、産業的応用に直接にはつながらないようなものに関しては、残念ながらその水準には及ばないようであります。
基礎研究の面で我が国の貢献が望まれる分野は自然科学だけではないように思われます。
最近、優れた演奏家を輩出している純音楽についても、欧米で多数の邦人演奏家が活躍していることは素晴らしいことでありますが、我が国の音楽の水準がより大きく人類に貢献出来るためには、演奏法や楽曲の解釈などについて、独自のより深い研究が必要であると考えられます。

当財団設立発起人松尾重子、宅間慶子、宅間宏などは、このような重要な分野での我が国の貢献が世界的により大きくなり、我が国がこれらの面でも世界の尊敬を集めるまでに発展することを日頃から望んでおりましたが、このたび、このような方向へ我が国の発展を願って、ここに基金を拠出して財団法人松尾学術振興財団を設立することといたしました。
当財団は、有為の研究者による自然科学、人文社会科学の独創的な学術研究および研究集会等に対して助成、援助を行い、我が国の基礎学術の向上、発展にいささかでも寄与したいと念願するものであります。

昭和63年11月24日

設立発起人
松尾 重子
宅間 慶子
宅間 宏